寝室の窓から入り込んでくる今朝の風は涼しさを宿していて、私はいつもより軽やかな気持ちで身体を起こす。夜の間は締め切っていた大きな窓も開けて、レースのカーテンが膨らむと部屋の中を風がすーっと吹き抜ける。臥せっている間に、季節はすっかり夏にな…
朝になったら起きて、部屋着のままゴミを出して、ベランダでオリーブに水をあげて、ミイさんの水筒を準備して、玄関から手を振り見送って、窓際に座りオリーブを眺めて、福だるまの様子を伺って、また布団に戻る。文字に起こせば何の変哲もない私の生活は淡…
ミイさんが起きだす気配。私も目を開けねば、と思いつつもう一瞬だけ気を緩める。ハッと目を覚ますとミイさんはもうしゃっきり起きた顔をしていて、私も伸びをして急いでミイさんの水筒を準備する。やたらと眠たい朝だ。頭が重たいせいで重心が高い位置にあ…
冷蔵庫にホワイトボードが導入され、生活がまた一つ快適になった。今朝のゴミ出しについてメモを書いていたお陰で、冷凍庫の隅にまとめておいた生ごみを今度こそ捨てることができたぞ。小さく拳をぐっとする。些細なことだが、結構嬉しいものだ。よしよしと…
朝、いつも通りゴミ出しをしていると、ランドセルを背負った小学生や学生服姿の中学生の登校が再開していることに気付く。ぼんやりとしている私は、今日になってやっとそのことをお、と思ったのだが、もう新学期が始まって二週目のはずだ。明らかにぶかぶか…
結局、昨日は軽い昼寝のつもりがしっかりと夕寝をしてしまい、玄関のチャイムが鳴る音に叩き起こされた。ハッと目を開けると部屋の中はもう暗くて、瞬時にすべてを理解した体が勝手に玄関へ走る。ミイさんごめん、おかえりなさい、今日もやってしまった、ご…
坂を上ってゆくミイさんを見送って、今日は朝寝に戻らず私もそそくさと外出の準備をする。日記屋月日さんが主催する日記祭の当日。今日を体調良く迎えられて良かった。シャワーを浴びて、髪を乾かして歯を磨いて、化粧をして髪を結う。気合いを入れた日ほど…
空気が千切れてそこから血が出るんじゃないかと思うほどの強風。一日中おもてはびゅうびゅうと鳴っていて、世界のすべてが飛んでなくなってしまいそうな突風が吹くたびに、肩を強張らせていた。和室の障子、その後ろに窓があると分かってはいても、怖いもの…
栗饅頭があまりに美味なる菓子にて、ヤカに衝撃走る――!思わず私の作画は『ベルサイユのばら』調になり、白目を剝き背景にはいかずちが落ちる。饅頭の上に薄く乗った羊羹が特徴的で、柔らかな生地に包まれた白餡はまさに甘露の味わい。中心に御座します一粒…
起き抜けにコーヒーを飲む。今朝はミイさんが淹れてくれて、素敵な休日の朝だ。そう、素敵な休日の朝なのだが、そこには真面目な顔をして静かにコーヒーを啜る二人がいた。何もギクシャクしているわけではない。昨日外出先で飲んだコーヒーがとてもクリーン…
怒涛の外出ラッシュを終え、久しぶりに一日家に籠る今日。ミイさんと一緒にゴミ出しをしてお見送りを終え、洗濯物をじゃんじゃか干して、オリーブをベランダに出して水をあげる。水をやった後だんだんとひんやりしてくる鉢が好きで、しばらく手を当ててじっ…
オリーブと福だるまを植え付けてから一週間が経った。オリーブの新芽は綺麗な若緑で、植え付けたときの写真と見比べると、やはり少しばかりにゅっと伸びているようだ。伸びた気がする、というのが気のせいではなく嬉しい。日に透ける緑が上へ上へ伸びていく…
今朝は気持ちよく晴れていて、シャワーを浴びている間に洗濯機をぐおんぐおん回す。いつもより多めの洗濯物を干しながら、今日が底抜けに明るい陽気で良かったと思う。四月。太陽をたっぷりと浴びたオリーブが放つ光に強く優しく包まれていなかったら、きっ…
少し綺麗な格好をして、だんだんと日が傾いてきた街を行く。今日のミイさんは早上がり。仕事の後少し足を延ばして、前の職場へ制服を返却するついでにそこで一緒に飲もうと話していたのだ。旧居に住んでいる頃は、結局一度もお邪魔できなかった。SNS越しに眺…
恩師がこの三月末を以て定年を迎える。研究室の掃除ももう終えたのだと、数か月ぶりの便りにはそう記してあった。きっと疾うの昔に本棚から溢れたであろう書籍、いつ雪崩を起こしても不思議はない山積みの書類、辞書の入った段ボール、コーヒーメーカー。そ…
眠い目を擦りながら起きだし、カーテンを開ける。今朝は気持ちよく晴れていて、朝日が部屋によく差し込んでくる。窓際のオリーブは今日もしなやかに凛として、新しい住処に選んだ鉢もやっぱり似合っていて、一層素敵だ。日が当たってその美しさを増す葉を、…
パンク寸前の気配を感じ、今日はゆっくり過ごそうととりあえず決めてみる。この一週間、いろいろなことがあった。じんわりと今も体の真ん中が暖かいままの嬉しかったことも、悲しみを悲しみだと認めたことも、擦り傷と共に決意を新たにしたことも。すべてが…
挙式の打ち合わせを終えた私たちは、昨晩もつ鍋をつつきながらしこたま焼酎を飲んだ。緊張から解放され弛んだ体に焼酎はみるみる浸み込む。すっかり酔っ払ってしまった私は、結局帰宅してそのまま眠ってしまったのだった。「まだこ」という初めて飲む芋焼酎…
玄関に飾っていた花を、日の当たる場所に移す。友人が生けてくれた御守りの花々。帰宅したら真っ先にミイさんの視界に入ってほしいと思い、ゆうべ玄関に飾ったのだった。思惑通り、帰宅したミイさんの顔がパッと明るくなる。それを台所から確認した私は、「…
交差点を曲がると、深い橙色のコートを身に纏った人影がパッと目に飛び込んでくる。その人影はこちらに気が付いたようで、どちらからともなく手を振り小さく駆け出す。久しぶりに見る友人の顔に深く安心する。ようこそ私の住む街へ。喜びに火照った肌を冷や…
ミイさんの耳鼻科が終わる時間に合わせて家を出る。私が駅に到着した時にはミイさんは既に改札前に立っていたが、ちょうどぴったり今着いたところだと言っていた。それならきっと本当にそうなのだろう。このやりとりについて優しい嘘の可能性を考えない、そ…
今日は一日天井を見て過ごした。気が付くと部屋の中は暗く、立ち上がって磨り硝子越しの電気を一つだけつけた。浮かんでは消え浮かんでは消えする漫ろ言は私を養分に発生しているようで、知らぬ間に少しずつ食い物にされていた私は何だか疲れてしまった。
朝方目を覚ますと、ばらばら雨音が聞こえる。廊下に出ると空気はしっとりと冷たく、肌にひんやりと纏わり私をいつもより内向きにさせる。家で過ごす時間が増えた私は雨に濡れることは減ったが、雨音は少し苦手になってしまったように思う。
ピクニックから一夜、新しい朝が来た。ゴミをまとめてゴミステーションに出し、タオルを回収して洗濯機を回し、麦茶のお湯割りを水筒に詰めミイさんの鞄に入れる。いつも通りの一日が滞りなく始まる。一つだけ違うのは、ベランダにピクニックシートを干して…
目が覚める。寝る前に仕掛けておいた食パンがあと少しで焼き上がりそうだ。寝室のドアを開け放つと、小麦の匂いが流れ込んでくる。ミイさんと「幸せな匂いが充満してるねえ」と話しながら待っていると、ついにピーと呼ばれる。フランスパン風に焼いた今回の…
朝起きたら、チューリップの花弁が三枚ぽとりと床に落ちていた。はっと悲しくて、しかし綺麗に片側の花弁が落ちて断面図のようになった姿もまた目を惹いて、きっと明日にはもう見られない姿だろうからと写真に残す。落ちてしまった花弁は、小皿に水を張って…
ゴミ回収ぎりぎりの時間に起きる。慌ててゴミをまとめて、ついでに排水溝をスポンジで拭って新しいネットをかける。無事にゴミを出し終えて顔を上げると、一段と色を増した街。
ちょっと生活さぼりたいようの気持ちがあり、しかしそれは伸びてきた黄色いチューリップを少し切り戻すのと一緒にちょんと切った。水を張ったボウルの中に、斜めに切られたチューリップの茎とずんとした気持ちが沈んでいる。ざばんと流しに流してボウルを濯…
ミイさんが「今日はいつもより早く帰るよ」と出掛けていって、私はそのことを手帳に書き損ねていたようで、過去のぽかのお陰で朝から一つ得をした気分である。早く帰ってきておくれね。
暖かく、風の穏やかな日。絶好のお出掛け日和である。休日のミイさんと一緒に家を出て、母と電車内で合流し三人でドレスサロンを目指す。五月に控えている結婚式の衣装合わせをする日がやってきたのだ。落ち着いた様子で挨拶を交わす二人をよそに、私は一人…