ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年7月21日◆夏に至る、風鈴を吊るす

寝室の窓から入り込んでくる今朝の風は涼しさを宿していて、私はいつもより軽やかな気持ちで身体を起こす。夜の間は締め切っていた大きな窓も開けて、レースのカーテンが膨らむと部屋の中を風がすーっと吹き抜ける。臥せっている間に、季節はすっかり夏になっていた。ベランダで、わさわさに育ったオリーブに水をやる。ごくごくと水を吸い込む乾いた土を見ていると、自分ものどが渇いていることに気が付く。冷蔵庫を開けて、コップに注いだ冷たい麦茶を一気に飲み干す。おはようございます。

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2023年4月21日◆終わらない下り坂は終わる

朝になったら起きて、部屋着のままゴミを出して、ベランダでオリーブに水をあげて、ミイさんの水筒を準備して、玄関から手を振り見送って、窓際に座りオリーブを眺めて、福だるまの様子を伺って、また布団に戻る。文字に起こせば何の変哲もない私の生活は淡々と続いていて、しかし生活の中で私はわやわやと忙しなく、こうして落ち着いて日記を書くことができるのも当たり前ではないのだなと実感する。ここ一週間ほど、あまり調子が優れなかったのだ。そう、優れなかった、意識して、過去形で書いてみる。

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2023年4月14日◆お味噌汁をこぼしても大丈夫

ミイさんが起きだす気配。私も目を開けねば、と思いつつもう一瞬だけ気を緩める。ハッと目を覚ますとミイさんはもうしゃっきり起きた顔をしていて、私も伸びをして急いでミイさんの水筒を準備する。やたらと眠たい朝だ。頭が重たいせいで重心が高い位置にある体をふらつかせて、ミイさんを見送る。今日は帰りが早いんだったね、嬉しい、気をつけていってらっしゃい。大きく手を振ると、頭もぐおんと揺れる。今日の私はすべての動作が重たい。

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2023年4月13日◆黒電話くんと丸底フラスコくん

冷蔵庫にホワイトボードが導入され、生活がまた一つ快適になった。今朝のゴミ出しについてメモを書いていたお陰で、冷凍庫の隅にまとめておいた生ごみを今度こそ捨てることができたぞ。小さく拳をぐっとする。些細なことだが、結構嬉しいものだ。よしよしとメモを消し、代わりに、メタモンが変身したみたいな顔をしているウサギを描いておいた。目は点、口は横にぐいんと伸びて、長い耳だけが自分がウサギであることを主張している。何を隠そうこの私、絵心というものがまるでないのだ。

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2023年4月11日◆ハンバーグは美味しかった

朝、いつも通りゴミ出しをしていると、ランドセルを背負った小学生や学生服姿の中学生の登校が再開していることに気付く。ぼんやりとしている私は、今日になってやっとそのことをお、と思ったのだが、もう新学期が始まって二週目のはずだ。明らかにぶかぶかの学ランを着ている少年は新入生だろうか。心も体もすこやかに過ごせる時間がたくさんあるといいね、でも、そうじゃなくても大丈夫だよ。少年の背中に語り掛けるふりをして、自分に言い聞かせる。春。

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