ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年3月13日◆まだバスのある時間

ゴミ回収ぎりぎりの時間に起きる。慌ててゴミをまとめて、ついでに排水溝をスポンジで拭って新しいネットをかける。無事にゴミを出し終えて顔を上げると、一段と色を増した街。

 

椿だろうか。ふっくらとした花がここ最近でまたぶわっと開いたように思う。艶々とした葉が美しくて、でも見慣れた風景。名がついているものの名を、間違えずに呼べるようになりたい。私はヤカ。あなたの名前は?薄雲から透けて照る朝日が葉越しに眩しくて、少し幻想的だ。ねえ、今日はこの後雨が降るらしいよ。

 

朝方目を覚ますと、ミイさんも起きていた。お散歩して喫茶店にでも行こうと話した記憶が朧げにあるが、さてどうしよう。家に戻るとミイさんはまだ寝ていて、私ももう少し、ともう一度布団に潜る。程なく目を覚ましたミイさんは、あれ寝ちゃってたのかな、と様子が把握できていないふうだ。寝惚けるぬくい丸まりの何と愛らしいこと。この後天気崩れるみたいだけどどうしようか、と話すと「買い物行ってくるから家で喫茶店しよう」とサラリと返される。ミイさんは楽しいことを思い付く才能に溢れた人だ。私もそうなりたい、をたくさんたくさん持っている。

 

買い物には一人で行ってくれると言っていたが、天気も心配だしお米も買いたいしと、私も一緒に行くことにする。朝のスーパーは混んでいて、この街に住む人々はこんなにもいるんだっけかと少し面喰いながら実感する。何かを手に取りながら「ミートソース作るから買うよ」「あー、でも大変だろうからどっちでもいいよ」と若い夫婦の話し声。日常を垣間見た気がして、人の持つ体温が確かにそこに在るのを感じる。

 

シェフ・ミイはBLTサンドを作ってくれて、私はコーヒーを淹れる。喫茶店の朝だ。トマトはマリネしてあって、それだけでちょっと特別な美味しさのBLTサンドになる。外は風が強くなってきて、ざあっと雨が降る。今日はもう家に籠っていられると分かっているから、窓から雨を眺める気持ちは軽やかだ。心は忙しく、喫茶店の朝を楽しむ傍ら、ブログ読んでいますのコメントを思い出し口許が緩む。トマトが滑り落ちそうになる。昨日は一日中、『コジコジ』に登場するハレハレ君のように口をモゴモゴさせていた。

 

今日は久しぶりにゲーム漬けの一日だ。山桜桃の梅酒に苺を浮かべたお酒をお供に、ミイさんときゃあきゃあ言いながら遊ぶ。高校球児を育て、ワリオミニゲームに苦戦し、ハイラルの大地を駆け巡る。話を思い出しながら、中途半端になっていた『MOTHER2 ギーグの逆襲』を進められたのも嬉しい。まだまだ旅路は続きそうだ、エンディングを迎えられるだろうか。ゲームにのめり込むようになったのは、以前体調を崩してからだった。束の間の現実逃避、死なないための暇潰し。それを今は楽しい気持ちでプレイできているのだから、ちょっと駄目な日があっても上等だろう。

 

夕飯は、これまたシェフ・ミイによるナポリタン。山盛り食べて、おかわりまでしてしまう。喫茶店な一日を過ごし、お腹も心も満ち満ちる。遊び疲れた私たちはいつもよりうんと早くに布団へ入る。横になっていると、路線バスの一時停止するブロロという音。まだバスのある時間に眠るのはいつぶりだろう。明日は早起きして、しゃっきりコーヒーを淹れよう。