ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年4月13日◆黒電話くんと丸底フラスコくん

冷蔵庫にホワイトボードが導入され、生活がまた一つ快適になった。今朝のゴミ出しについてメモを書いていたお陰で、冷凍庫の隅にまとめておいた生ごみを今度こそ捨てることができたぞ。小さく拳をぐっとする。些細なことだが、結構嬉しいものだ。よしよしとメモを消し、代わりに、メタモンが変身したみたいな顔をしているウサギを描いておいた。目は点、口は横にぐいんと伸びて、長い耳だけが自分がウサギであることを主張している。何を隠そうこの私、絵心というものがまるでないのだ。

 

ミイさんを見送り、豆腐に納豆を乗せて食べながら、YouTubeで園芸チャンネルの多肉植物回を見る。今朝確認したところ、福だるまはもう一枚身割れを起こしており、とにかく信用に値する情報をできるだけ集める必要があった。心配性の私である。多肉植物を育てる上での基礎を改めて確認し、ここは気をつけないといけないな、と現状と照らして手探りで輪郭を探す。福だるまの身割れは、やはり水のあげすぎが原因のようだった。そうなると、原因は私だということがはっきりする。おそらく、福だるまは春と秋に生長するタイプだという情報に少し気が緩み、水をあげると葉がぷっくらするのが可愛くて嬉しくて、水をあげすぎてしまったのだろうな。ごめんなさい。愛の供給過多。

 

身割れによる心配は、ふくふくちゃんそれ痛くないのかな、つらくないのかな、そこから病気になったりなどしないのかな、という点だ。調べられた範囲では、身割れを起こしてしまうと元には戻らず見目はこのままである、以上の情報は出てこなかった。それなら大丈夫、なのかな。よく日に当てて、水をあげるタイミングをよくよく考えよう。新芽や他の葉が上を向いて大きくなってくれており、それが唯一の安心材料だ。ミイさんは、私を安心させようと「ヤカさんの愛だ!パーン!」と福だるまの代弁(?)を最近よくしてくれるのだが、本当にそれだけだったらいい。祈る気持ちを込めて、今朝もベランダに出した。

 

そんな私を心配するように――というのは私の解釈だが――オリーブは今日も発光しもりもりと茂っている。新芽だった部分がすっかり葉っぱらしくなってきて、もう新芽ではなく新緑と呼びたいような力強い姿だ。一枚一枚の葉が大きくなって少しずつ艶を帯びて、ピンと上を向いて伸びる様は私を元気づけた。今日は時間があるので、簡単なメモを書いてある日記の下書きを引っ張り出して、二日分投稿できたらいいなと書き進める。ここ一ヶ月くらいでまた山のように増えた本も読もう。日記本に長編小説に短編集、歌集に詩集にインタビュー集、雑誌もある。本棚を大きくしたはいいが、同時に気持ちも大きくなって私の机の上には宝が山積みになっている。まずは君たちの住所を決めないとね、と思いつつ、本棚へ並べるのはもう少し後になりそうだ。手にしたかったものだけで作られた本の山は、手にした日の記憶を携えて静かに荘厳に聳え立っている。

 

昼食に、キムチと挽肉の焼うどんを作った。何だか部活の後に食べたいような料理だな、と思いながら食べた。部活の後に食べたい料理ってなんだろう、ちょっとジャンクでガッツリ系で簡単にできる料理のことかな、などと考えてみる。作り出す前は最後に削り節を振りかけようと思っていたのだが、それは食べ終わった後に思い出した。

 

布団の上に座り、古賀及子さんの『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』を読んでいると、玄関のチャイムが鳴った。郵便局です、お届けに参りました。お、来たぞ、とワクワク扉を開ける。「こわれもの」のシールが貼られた段ボール。Ojiのウォータードリッパーが届いたのだ。ミイさんがお手本のようなニヤリ顔で注文完了画面を見せてくれたのは、つい最近のこと。思った以上に到着が早い。ミイさん、喜ぶだろうなあ、今すぐにでも帰ってこないかなあ。段ボールを開けると中にはからし色の箱が入っていて、ここから先の開封はミイさんと一緒にやろう。みるっこの隣に置くかね、という話を事前にミイさんとしていたので、すぐにでも設置できるように場所を作って掃除をしておく。届いたよ、と連絡を入れると、帰ったら開封の儀だね、と嬉しそうな返信があった。

 

ミイさんが帰宅し、夕飯を終えいよいよ開封の儀だ。わあ、本物だ……!ミイさんとの京都旅行で初めてその存在を知り、一年経たないうちに家にお迎えすることになるとは。まんまるのウォーターボールが可愛らしい。早速みるっこの隣に置いてみる。黒いみるっこに合わせて選んだ、黒い木枠のウォータードリッパー。少し離れて見てみると、もうずっと前からそこにいたかのような佇まいだ。ただいまー、と帰ってきて視界に入るとどんな感じだろう、とか、いろいろなシーンを想像して様々な角度から眺めてはニマニマする時間をしばらく過ごす。楽しいねえ。

 

黒ばかりだとどこかシュッとしすぎてしまいそうにも思うが、そんなことはまったくなかった。二つとも丸みを帯びた形をしているから、重厚な雰囲気から隠し切れない可愛らしさがとてもチャーミングに目に映る。みるっこは黒電話のような家に馴染む愛らしさがあるし、Ojiのウォータードリッパーは理科の実験道具のようなインテリアとしての魅力が物凄くある。丸いウォーターボールなんて、アンモニアの噴水実験に使う丸底フラスコそのものじゃないか。金属部分が金色なのも、温かみを感じさせているのだろう。黒電話くんと丸底フラスコくん、ふたりはともだち。

 

水が落ちる様子を見たいから、初めて使うのは明日にしようと決めて今日は寝る。ぱんぱんになったミイさんのふくらはぎを揉んでいると、寝息が聞こえてきた。声を掛けるも、珍しく既にぐっすりのようだ。足裏まで揉み終えて、私も布団に入って目を閉じる。隣の寝息が呼んでくれたのだろうか、今日は私の元にも睡魔がすぐにやってきた。