ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

天井

今日は一日天井を見て過ごした。気が付くと部屋の中は暗く、立ち上がって磨り硝子越しの電気を一つだけつけた。浮かんでは消え浮かんでは消えする漫ろ言は私を養分に発生しているようで、知らぬ間に少しずつ食い物にされていた私は何だか疲れてしまった。

 

漂う言葉のようなぼやぼやに焦点も合わせず、その先にある天井を見つめているわけでもない。徒労感。ただただ何かを消費している感覚だけがある。自らの意思で止められるものならとっくに止めている。

 

歓迎されざる人間の可能性。儀式の意味。昨晩食べたモンブラン。やっぱり取りやめてしまおうかという逡巡。自己憐憫に似た嘘。窓を開けて感じた風の匂い。顔を撫ぜる空気の動き。イングリッシュマフィンを焦がしたこと。白紙に戻してしまえという暴力的な感情。今朝見た朝日の色。部屋に差し込む日の暖かさ。常識の常識でなさについて。簡単に自分が悪いことにするものぐさ。晴れ着に心躍ったこと。白無垢の美しさと確かに感じた明日より先への明るい気持ち。萎む風船。割れた風船。思い出す衝動の夜。部屋がどんどん巨大になるように感じた恐怖。春菊のチヂミ。初めて作ったキッシュ。ぱくぱくと食べて笑顔になるミイさん。満点越えの毎日。減点方式の評価。至らなさにばかり目が付く癖。むくんだ足を揉んでいると聞こえてくる寝息。潰えた夢。自意識過剰の自覚とどうしようもない見栄。一人暮らしの部屋の布団の上。あの日送信したメール。実家から見る海。朝方から大声で喋る漁師。止まった時間。何度も退学しようと思ったこと。壊れながら通い切った授業。出席しなければよかったと少し後悔した卒業式。入学当初の瞳を輝かせる私。台風一過の青空の下教育実習先へ向かう足取り。辞書の詰まったスーツケースを転がす音。空きコマと六限後に通い詰めてどうにか提出したお粗末なOPAC。意地でもぎ取った資格。伴わない知識。人の家の本棚。比較し落ち込む腐った性根。恩師の顔と研究室と大連。北京で買い足したスーツケース。もうすぐ届く珈琲豆と浮かぶ友人の顔。明後日久しぶりに会う友人と黄色いチューリップ。連絡できていない友人のずっと変わらないLINEのアイコン。大切な人たちからもらった言葉。言葉。言葉。踏ん張りたいという思いの再確認。すべてどうでもいいやという投げやり。

 

焦点を合わせ、天井の模様を眺める。幼き日、熱を出して二段ベッドの下段で寝かせてもらったことを思い出す。目を覚ますと視界いっぱいに王蟲が何体も歩いているように見えて、それがとても怖かったのだった。懐かしい。風邪を引いた時に作ってもらう釜揚げうどんが好きだった。大手を振って甘えられる理由があるのが好きだった。

 

天井がどうにもぼやけて、耳が濡れる。このまま耳の窪みに水が溜まったら、この湖に名前を付けてやろう。