ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2023年3月29日◆終幕ではなく幕間なのであって

恩師がこの三月末を以て定年を迎える。研究室の掃除ももう終えたのだと、数か月ぶりの便りにはそう記してあった。きっと疾うの昔に本棚から溢れたであろう書籍、いつ雪崩を起こしても不思議はない山積みの書類、辞書の入った段ボール、コーヒーメーカー。そ…

2023年3月27日◆蕩めく春の日、オリーブの輝き

眠い目を擦りながら起きだし、カーテンを開ける。今朝は気持ちよく晴れていて、朝日が部屋によく差し込んでくる。窓際のオリーブは今日もしなやかに凛として、新しい住処に選んだ鉢もやっぱり似合っていて、一層素敵だ。日が当たってその美しさを増す葉を、…

2023年3月26日◆土は軽くふかふかと

パンク寸前の気配を感じ、今日はゆっくり過ごそうととりあえず決めてみる。この一週間、いろいろなことがあった。じんわりと今も体の真ん中が暖かいままの嬉しかったことも、悲しみを悲しみだと認めたことも、擦り傷と共に決意を新たにしたことも。すべてが…

2023年3月25日◆区切りの季節、手を動かすこと

挙式の打ち合わせを終えた私たちは、昨晩もつ鍋をつつきながらしこたま焼酎を飲んだ。緊張から解放され弛んだ体に焼酎はみるみる浸み込む。すっかり酔っ払ってしまった私は、結局帰宅してそのまま眠ってしまったのだった。「まだこ」という初めて飲む芋焼酎…

2023年3月22日◆春を迎えるための歌、大きな緑

玄関に飾っていた花を、日の当たる場所に移す。友人が生けてくれた御守りの花々。帰宅したら真っ先にミイさんの視界に入ってほしいと思い、ゆうべ玄関に飾ったのだった。思惑通り、帰宅したミイさんの顔がパッと明るくなる。それを台所から確認した私は、「…

2023年3月21日◆頷きは感情の存在承認

交差点を曲がると、深い橙色のコートを身に纏った人影がパッと目に飛び込んでくる。その人影はこちらに気が付いたようで、どちらからともなく手を振り小さく駆け出す。久しぶりに見る友人の顔に深く安心する。ようこそ私の住む街へ。喜びに火照った肌を冷や…

2023年3月20日◆花を飾る、キッシュを焼く

ミイさんの耳鼻科が終わる時間に合わせて家を出る。私が駅に到着した時にはミイさんは既に改札前に立っていたが、ちょうどぴったり今着いたところだと言っていた。それならきっと本当にそうなのだろう。このやりとりについて優しい嘘の可能性を考えない、そ…

天井

今日は一日天井を見て過ごした。気が付くと部屋の中は暗く、立ち上がって磨り硝子越しの電気を一つだけつけた。浮かんでは消え浮かんでは消えする漫ろ言は私を養分に発生しているようで、知らぬ間に少しずつ食い物にされていた私は何だか疲れてしまった。

雨音

朝方目を覚ますと、ばらばら雨音が聞こえる。廊下に出ると空気はしっとりと冷たく、肌にひんやりと纏わり私をいつもより内向きにさせる。家で過ごす時間が増えた私は雨に濡れることは減ったが、雨音は少し苦手になってしまったように思う。

2023年3月16日◆暗闇のへりに佇む

ピクニックから一夜、新しい朝が来た。ゴミをまとめてゴミステーションに出し、タオルを回収して洗濯機を回し、麦茶のお湯割りを水筒に詰めミイさんの鞄に入れる。いつも通りの一日が滞りなく始まる。一つだけ違うのは、ベランダにピクニックシートを干して…

2023年3月15日◆どう足掻いてもいい時間

目が覚める。寝る前に仕掛けておいた食パンがあと少しで焼き上がりそうだ。寝室のドアを開け放つと、小麦の匂いが流れ込んでくる。ミイさんと「幸せな匂いが充満してるねえ」と話しながら待っていると、ついにピーと呼ばれる。フランスパン風に焼いた今回の…

2023年3月14日◆遠足前夜

朝起きたら、チューリップの花弁が三枚ぽとりと床に落ちていた。はっと悲しくて、しかし綺麗に片側の花弁が落ちて断面図のようになった姿もまた目を惹いて、きっと明日にはもう見られない姿だろうからと写真に残す。落ちてしまった花弁は、小皿に水を張って…

2023年3月13日◆まだバスのある時間

ゴミ回収ぎりぎりの時間に起きる。慌ててゴミをまとめて、ついでに排水溝をスポンジで拭って新しいネットをかける。無事にゴミを出し終えて顔を上げると、一段と色を増した街。

2023年3月11日◆低く飛ぶ

ちょっと生活さぼりたいようの気持ちがあり、しかしそれは伸びてきた黄色いチューリップを少し切り戻すのと一緒にちょんと切った。水を張ったボウルの中に、斜めに切られたチューリップの茎とずんとした気持ちが沈んでいる。ざばんと流しに流してボウルを濯…

2023年3月10日◆月の私は太陽を目指す

ミイさんが「今日はいつもより早く帰るよ」と出掛けていって、私はそのことを手帳に書き損ねていたようで、過去のぽかのお陰で朝から一つ得をした気分である。早く帰ってきておくれね。

2023年3月9日◆生成り色と春色の嬉しさ

暖かく、風の穏やかな日。絶好のお出掛け日和である。休日のミイさんと一緒に家を出て、母と電車内で合流し三人でドレスサロンを目指す。五月に控えている結婚式の衣装合わせをする日がやってきたのだ。落ち着いた様子で挨拶を交わす二人をよそに、私は一人…

2023年3月7日◆絵本に登場したいのだ

目を覚ましたらミイさんの姿がなく、眼鏡もかけずに探していたら何ともなしにお手洗いから出てきた。おはよう。本気で焦った自分に気が付き笑ってしまう。絶好調は終わってしまったかもしれないな。ママの姿を探して泣く赤ちゃんみたいな弱さを自覚する。

2023年3月6日◆風船は割れなければよい

昨晩、大きな里芋に片栗粉をまぶして揚げた。ミイさんを送り出した後、それをトースターでこんがりと温めなおし軽く塩を振ってあむとかぶりつく。カリカリでほくほくでトロトロ。変に繊維を感じなくて均一にむちっとした里芋を引けたら大当たりだ。

2023年3月4日◆発光する背中

ハナレグミの弾き語りツアー、Faraway so closeに参加してきた。数日前に勢いで行くことを決めたライブ。一人で遊びに出掛けていける体力が戻ってきたことを実感し嬉しさを噛みしめる傍ら、やっと手に入れた元気を大切にしようと気を引き締める。

2023年3月3日◆傷口に黄色いチューリップ

昨日から擦り減ることが立て続けにあって、すっかりぺそぺそで生傷だらけの心の私である。今日は三週に一度の病院に行く日で、ミイさんにも同行してもらった。

2023年3月1日◆生活はアップルパイ

いつも机の上に開いている手帳を一頁めくる。今日から草木茂りまさる弥生。今日を繰り返す毎日の中にあって、分かりやすい区切りは時にありがたい。改めてスタートした生活が積み重なり、日一日と心地よい重みが増すのを少し立ち止まって感じる。

2023年2月28日◆春宵にほうれん草のキッシュ

「明日も朝起きたらパーティーしよう」とミイさんに言われ、何をしよう、やったやったと喜んでいたら目覚ましアラームが鳴った。ここ最近で一番愉快な夢を見た。