ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年2月22日◆落ち込まないよう少し踊る

特に予定のない日、目が覚めてからもしばらく布団の中でうだうだしている。どうにか布団から這い出し洗濯を回したら、洗濯機が上がるまでまた布団に戻る。

 

頭の中に我が家の間取り図を広げ、布団の上に二つの生命反応が集まっている様子を思い浮かべる。ぬくぬくした場所に丸まる生き物たち。朧げな記憶、新井素子先生の著作に生命反応のそんな描写があったような気がする。

 

最近撮った写真をミイさんに見せていたら、「ヤカさんはいい写真を撮るから、少し勉強してみるのもいいんじゃない」と一冊の本を貸してくれた。Val Williams著『Study of PHOTO:名作が生まれるとき』は、現在名作とされる作品がなぜ名作なのか、作品に明解な解説を添えている一冊である。鑑賞の目は全くと言っていいほど育っていない私にとって大変興味深い内容で、ミイさんの選書センスに脱帽しながら隣で読みふける。ミイさんはパルデア地方を駆け巡っている。悲しませまいともちこたえた!

 

インターホンが鳴る。楽しみにしていた今月の珈琲豆が届いた。紙箱と豆の匂いが混じっている届いたばかりの包みが好きだ。見計らったかのようなタイミングで湯が沸いたので、玄関からまっすぐコーヒー道具の前に向かう。穏やかな酸味と苦みと温かい甘み、深呼吸して、ほっとする味。友人の手書きの文字を見て少し心配になる。近頃どうしているだろうか。少しでも緊張の糸を緩められる時間があるよう、遠くから祈っている。

 

今日はミイさんと話そうと思っていた事務的なことを後回しにしてしまい、結局後日に延期してしまった。少し落ち込むが、落ち込んだところでミイさんに負担をかけてしまうだけだ。風呂が沸く。ミイさんが先に入っている間に、これ以上落ち込まないよう少し踊る。追いかけて風呂に入ると、ミイさんが珍しく仕事の疲れを話してくれた。私は家守だ。この場所をミイさんが安心して帰ってこれる家として守りたいし、できる限り毎日穏やかに「おかえり」と言える生き物でありたい。密やかな決意を胸に、湯船の中ちゃぷちゃぷと再び一人踊る。

 

ミイさんが、夕飯にロマネスコと紫カリフラワーとセロリのクリームパスタを作ってくれた。くたくたに茹でてパスタソースになったロマネスコは私の大好物だ。乾煎りしたパン粉と削ったチーズを乗せたら完成、おなかがぐぅと鳴る。カシスリキュールに赤ワインを合わせて乾杯。気分が良くなって、食後にまたたっぷりとコーヒーを淹れた。

 

アルコールとカフェインでふわふわしながら湯たんぽを用意する。遠くに眠る友人にも、隣で目を閉じるミイさんにも、どうかいい夢を。