ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年2月23日◆だんだんとめいてきた

最近ミイさんがもらってきた波照間の黒糖がしみじみと美味しくて、パソコンに向かう時いつもキャンディのようにひとかけら舐めている。

 

昨夜はミイさんがあまりよく眠れなかったようで、夜中や朝方目が覚めるたびに空っぽの布団に気付いては心配していた。障子越しに少しずつ部屋が明るくなりはじめる時分、ずっと手を握っていた。

 

母から「今日は家にいますか」とのメッセージが届き、何だろうと思っていたら数十分後インターホンが鳴った。「野菜の押し売りでーす」と陽気な母は、おじさん*1の野菜をたくさん抱えている。なんでも、たまたま畑の前を通りがかったら久しぶりにおじさんを見かけたのだという。いつでも畑に入れるよう車に積んでいる長靴に履き替えて、畑からわさっと野菜を買って(半分貰って(?))来てくれたのだった。

 

玄関先で野菜を受け取る。白菜にキャベツに立派な白首大根。ほうれん草や春菊や若い小松菜、さらには小松菜の菜花まである。そして何より、この冬ずっと狙っていた念願のおじさん里芋!これは堪らない。母は野菜の押し売りと言いつつ、和菓子のお土産まで渡してくれた。出涸らしの茶葉に湯を注ぎ、みたらし団子を食べる。帰ってきたミイさんと食べるのに、残りは取っておく。

 

今日の夕飯は私が作ろう。献立は、里芋の梅おろし煮に小松菜の菜花とベーコンの炒め物。ミイさんにとって少しでもほっとできる時間になるだろうか。里芋の下拵えをしながら音楽を流す。自分が作ったプレイリストとはいえ、シャッフル再生で細野晴臣『終りの季節』、DJみそしるとMCごはん『ジャスタジスイ』、EVISBEATS『いい時間』、サカナクションシーラカンスと僕』と続くと、流石に少し泣きそうになる。今の私が聴きたい、今の私を支える音楽たち。

 

ミイさんは存外にぱーっとした笑顔で帰ってきて、それだけで気持ちがほどける。ご飯をよそってもらう間に、里芋の梅おろし煮を温めなおし、小松菜の菜花とベーコンを軽く炒める。野菜の美味しさに力を借りて、あまり緊張せず台所に立てる。最近、やっと自分の作る料理を美味しいと感じられるようになってきた。隣でペロリと完食してくれるミイさんにいつも感謝している。

 

食後にほうじ茶と、昼間母がお土産にくれた甘味をいただく。白餡のいちご大福はいつもとびきりに美味しくて、引っ越してきてからミイさんも気に入ってくれたので嬉しかった。桜餅は春のお手本のようで、甘い薫りで鼻腔が満たされると心も満ち満ちる。塩漬けの桜葉とずっしり練られた小豆餡、薄皮のほんの僅かに感じる香ばしさがほうじ茶とよく合う。ゆったりと過ごす。春、だんだんとめいてきた。

*1:自分以外の畑の野菜を食べていると「可哀そうに……」と口にする朴直で職人気質だが優しい農家のおじさん。このおじさんの作る野菜は(我が家にとって)この世で一番。