ヤカの散録

忘れてしまうあの日のひだ

2023年2月19日◆白い海、白い空

嬉しいもの、突然の休日。来週とシフトが入れ替わって、急遽ミイさんがお休みになったのだ。天気も良く暖かい日、なんだってできる。

 

明日は何をしようね、などと相談しながら昨夜は二人とも眠ってしまった。湯たんぽにもヒーターにも頼らない夜、春はそこまで来ている。少しのんびりと起きだして、海まで散歩に出ようということになる。外は烈風吹きすさぶ天気だが、幸い気温は散歩日和だ。荒れた海を眺めに行くのもいいだろう。

 

昼前、二人履き古したスニーカーで出かける。まっすぐ海まで下りて、できるだけ海岸線を歩く。海は大風に泡立ってちらちらと白く、真昼の空は薄雲がかかってぼうっとしかしはっきりと白く発光している。水平線を境に、二つの白があっちからそっちまでずうっと続いている。ぼんやりといつまでも眺めていられそうな気分になって足が止まる。ランニングのおじさんが私たちを通り越していく。ひときわ強い風が吹いて、潮が飛んでくる。もう少し歩こう。

 

えいやと足を延ばして、引っ越してくる前から一緒に行こうと話していた美術館を目指す。ちょうど気になる企画展が開催中なのは事前に調べてあった。美術館前の広場で、子どもたちが鬼ごっこをしている。河津桜がもうすぐ見頃を迎える。くっきりとした花色は、ぽやぽやと白い視界を歩いてきた私に新鮮に映る。企画展をゆっくりと回って、帰りに一枚ポストカードを買った。

 

ミイさんは「旅行に来たみたいだ!」と、終始はしゃいでいた。港町で生まれ育った私にとって、海のある景色も潮風の匂いも波音も何も新鮮ではなくて、最近はもう視界には何も映らないし鼻先をひこつかすことも耳を傾けることもなかった。しかし、それら一つ一つを新鮮に受け取り楽しげな顔を見せるミイさんが隣にいると、鈍っていたアンテナの錆が落ちて、何気ないことを楽しいこととして受け取れるようになる。目の前が見えて匂いに気が付いて音が聞こえる。楽しくなって、帰路につく前に浜に腰かけてサイダーを飲んだ。

 

ポストカードは、本棚と同じ色のフレームに入れてデスク脇の壁に掛けた。次はどこまで散歩に行こうか。